県の指摘に対する反論

「中部電力浜岡原子力発電所の再稼動の是非を問う県民投票条例案」の法制度上の主な問題点に対する反論

原発県民投票静岡
2012年9月3日


 静岡県は8月31日、表記県民投票条例案に対して法制度上の主な問題点を指摘・公表した。指摘に対しては、以下の通り反論する。同時に県民投票の確実な実施に向けて前向きな議論を、県当局を含め関係方面と進めてまいりたい。
 なお、指摘では、「非現実的である」、「法体系上、到底認められるものではない」等の、あたかも法制度上実施不可能な印象を与える文言が躍っているが、私たちは全国各地の同種の例を参考に専門家の意見も入れながら検討を重ね、実施可能かつ現実的な条例案を提案した。熟度は相当高いと自負している。ここは県民の願いを真摯に受け止め、感情的ではなく、冷静で前向きな議論をお願いしたい。

1. 県民投票の内容に係る面について
(1)投票資格者を18歳以上としたことについて


 国民投票法(平成19年5月18日)では投票資格者を18歳以上としており、本条例案でも制度の趣旨にかんがみ18歳以上としたものである。「現行の選挙制度等との整合性がない」などと指摘されているが、選挙制度とは別制度であり、指摘は見当違いである。

 しかしながら、実際上は現行の諸制度を連携・活用しながら県民投票を実現していくこととなるので、実施時期・事務作業の問題等を勘案すれば、18歳を20歳とすることはやぶさかでない。


(2)県民投票の期日について

 6か月以内の実施は非現実的である、と指摘されているが、本条例案は他の条例案を参考に、妥当な期間として6月を規定したものである。

  ただし、実際に実務を担当する県当局の意見を参考にして6月を変更することもやぶさかではない。

(3)県民投票広報協議会について

 適正な県民投票の前提は、県民に対する十分かつ公正な情報の提供である。県民投票広報協議会に係る規定は、従来見過ごしにされがちであったこの種の要請に応える制度として規定した。勿論、広報協議会制度にこだわる必要性はないが、本制度を提案した趣旨を十分に斟酌していただき、県民に対する十分勝つ公正な情報提供が担保されれば幸いである。
 なお、県民投票の広報事務は県議会の役割ではない、と断定しているが、短絡的な断定である。この判断が妥当であるか冷静に検討していただきたい。

2.その他条例文言の表記等の面について

 本条例案は、全国各地の類似の条例案等を参考にしながら、実現可能性を最も重視して作成したものであり、いわば標準的な県民投票条例案であると考えている。しかしながら、県当局の実務上の観点、これまで積み上げてきた静岡県固有の条例の解釈のあり方などから、関係方面とのすり合わせ・修正は当然ありうべしと考えている。また、県民投票条例案は、いわば制度実施のための骨格を定めたものであり、実現に向けて市町との調整規定等の諸規則を定めなければならないことは言うまでもない。

 市町は県民投票実務を遂行する能力は十分に備えている。要は、議会や知事の全県で実施するという意思如何の問題である。
実施主体となる県当局の前向きかつ現実的な検討を是非ともお願いしたい。


具体的な反論は、、、
 

▼第4条第2項[県選管への委任]
この規定によると、県民投票の管理及び執行に関する全ての事務を県選挙管理委員会に委任することになる。
しかし、投開票事務は、地方自治法に基づく市町への事務委託によらなければ実施が困難である。投開票事務を条例で知事から選挙管理委員会に委任することでは実施できない。

(反論)
この条例案は当然のことながら、県民投票の管理及び執行に係る規定のすべてを規律することとしていません。「投開票事務を条例で知事から選挙管理委員会に委任すること」だけで県民投票の管理及び執行が瑕疵なく行われるということではなく、その細目に関しては、県と市町とが必要な協議を行い、県の規則、事務連絡等を通じ、整備されることを想定しています。

この条例案は、規則への委任に関する定めを置いています(第27条第1項)。
具体的には、投票資格者名簿、投開票手続、期日前投票、不在者投票に関する事項などが該当すると思われますが、沖縄県民投票のさいに制定された「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例施行規則」(平成8年7月18日・沖縄県規則第67号)とほぼ同様の内容の規則を、県と市町とが必要な協議を行い、調整を図った上で整備することになります。

▼第5条第1項[投票期日]
県民投票を現実に実施するためには、投票資格者名簿の作成や投開票事務等において、地方自治法に基づき、市町に事務委託をすることが必要となるが、具体的には、次の手続が必要となる。
・県と各市町との事実上の協議
・規約案の作成
・県議会及び各市町議会の議決
・県と各市町との規約の締結
・県及び各市町で事務委託及び規約の告示
・総務大臣への届出
・投票資格者を満18歳以上する投票資格者名簿作成システムの構築
・県民投票の周知・広報
上記の手続に要する期間を考慮すると、「6月を超えない範囲」での執行は非現実的である。

(反論)
 「非現実的」との見解は、問題点を具体的に指し示すものではなく、批判のポイントが明らかではありません。
 住民投票条例の制定例では、投票実施までの期間は、地方自治特別法の制定に係る住民投票の期日に準じて、31日以後60日以内とする自治体もありますが、多くは、3か月の居住要件との整合性を図るため、「90日以内」とする自治体がほとんどです。

この条例案は、地方自治法上の直接請求に基づく県レベルの「個別制定型」であり、選挙人名簿をそのまま使用しないこと等による名簿システムの構築等、新規に発生する事務処理を勘案しつつ、「6月を超えない範囲」と、さらに長期の期間を設定するものです。この期間の設定に関しては、現実的、合理的であると考えます。

他方、これ以上の期間を設定すると、①期間の経過とともに、県民の関心が薄れるおそれがある、②県民投票の期日までの間に国政選挙等、他の選挙が行われる場合があり、争点が曖昧になる、③憲法改正国民投票の期日(国民投票法第2条第2項)の上限(180日)を超えるものとなり、法的整合性に一定の疑義が生まれる、などの問題が生じえます。

▼第7条第1項[投票資格者]
この規定によると投票資格者は「年齢満18年以上」となっているが、現状では公職選挙法第9条及び国民投票法附則第3条第2項の規定では「年齢満20年以上」であることから、これとの整合性がない。
「県の条例によって市町に業務を義務付けることはできない」という第9条第1項の問題点を前提とした場合、市町の協力を得られなければ、県においては第7条及び第8条の投票資格者を把握することはできない。

(反論)
 住民投票は公職選挙とは異なることから、投票資格等、特別の定めを置くことが許容されます。
とりわけ、投票案件が中長期的な政策課題の是非を問うものである場合には、より若い世代の政治的意思を反映させることが必要かつ妥当であると考えます。
公職選挙法第9条、及び地方自治法第18条の規定では、選挙年齢は「満20年以上」とされていますが、住民投票において投票年齢をさらに引き下げることは、通常、法的整合性が問われる論点ではありません。
 
岩城町の合併についての意思を問う住民投票条例(平成14年・秋田県旧岩城町)で全国で初
めて、投票年齢を「満18年以上」としたことを契機に、市町村合併の是非を問う多くの住民投票で18歳投票権が採用されました。常設型の住民投票条例では、広島市住民投票条例(平成15年)、我孫子市市民投票条例(平成16年)、岸和田市住民投票条例(平成17年)、近江八幡市市民投票条例(平成19年)等が、18歳投票権を採用しているところです。中には、大和市住民投票条例(平成18年)のように「16歳投票権」を採用する自治体もあり、法制執務の実態としても、法的整合性云々を問う時代ではなくなっています。

 国民投票法附則第3条第2項の解釈を述べておられますが、この条項を根拠に、国民投票の投票年齢を満20歳以上とするのは(総務省自治行政局が依拠している解釈ですが)、誤りです。 これは、法律の全面施行日(平成22年5月18日)までに、選挙年齢、民法成年年齢等、附則第3条第1項に定める法制上の検討措置が行われることを前提にした条項です。全面施行日までに法制上の検討措置が間に合わなかった場合にまで拡大適用する趣旨でないこと(つまり、20歳投票権と解釈することはしない)は、国民投票法案の国会審議のさい、法律案提出者が繰り返し答弁しているからです。
この点は、現在なお法制上の検討措置が行われていない状況において、国民投票の投票権は何歳かという問題に対し、法律の本則に戻って「18歳投票権」との解釈(立法者意思)が追完されているところです(参議院憲法審査会・参考人質疑(平成24年2月15日)における、船田元・前衆議院議員の答弁参照)。
「第9条第1項の問題点」とされることについては、次に述べます。

▼第9条第1項[投票資格者名簿の調製]
 県と市町村は、対等・協力の関係にある別の地方公共団体である。このため、県の条例によって市町に業務を義務付けることはできない。
第9条第1項の規定は、まさに地方自治法の基本的な原則に違反する規定であって、到底許されるものではない。

(反論)
投票資格者名簿の調製は、現実には市町に委託せざるを得ない事務です。もし、本条項を設けないとすれば、字義通り県の事務となってしまい、条項の「未整備」に対して、別の観点での批判を生むことになります。都道府県レベルの住民投票制度に関する統一的な法令が存在しない現状では、具体的な根拠規定がない限り、都道府県レベルの住民投票を行うことはできないということになりかねません。

地方自治法第2条第16項尚書(市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない)と、同法第245条の2(国及び都道府県関与の法定主義)との兼ね合いから問題となりますが、既述のとおり、この条例案では県と市町とが必要な協議を行い、調整を図った上で整備する(別に規則を定める)ことを想定していますので、本条項が「地方自治法の基本的な原則に違反する規定」との批判は当たりません。

▼第17条[投票の効力の決定]
この規定は、投票効力の決定に関する規定であるため、その内容はその決定の客観性及び公平性が担保されるようなものである必要がある。
しかし、「第18条の規定の趣旨に著しく反しない限り」との規定は、その内容が曖昧であり、特に「規定の趣旨」、「著しく」という表現は客観性及び公平性が担保できない。

(反論)
この条例案は、無効投票をできるだけ少なくする制度設計を志向しています。
投票用紙に予め、賛成、反対の文字を印刷することに鑑み(第14条第2項)、「他方の選択肢を二重線等で消した投票」、「選択肢の一方に○印を自書し、他方の選択肢を二重線等で消した投票」を有効投票とみなすことを想定しています。
解釈上、「軽微な他事記載」も有効投票とみなす余地があります。

文言の「客観性及び公平性」は、条例のなかで一切を規定し尽くすことは想定しておりません。請求代表者から示された考え方をベースに、事務連絡等の内規で定め、県民に周知広報することで十分担保することができると考えます(条例案第19条)。

▼第20条~第22条[県民投票広報協議会]
自治体の議事機関である県議会が、県の事務を直接に管理し執行することは地方自治法上想定されていない中で、県民投票の広報事務を管理し執行することは、県議会の役割ではない。
(なお、同様の規定は、国民投票法にあるが、憲法改正は国会が発議することとなっているために、国民投票法においては、国会が説明責任を果たすためその広報業務を担うことにしたものであり、全く事情が異なる。)

(反論)
 そもそも、県民投票広報協議会に係る規定は、県議会の「自律」にも関わることであり、行政機関の側が、条例案の該当部分に踏み込んで言及することは失当です。
 この条例案は、県民投票の管理及び執行に関することは、選管が基本的に行うこととし、とくに選挙公報に類する県民投票公報の「内容(政策面)」に関わることについては、県民投票広報協議会が行うという「役割分担」を想定しています。

 住民投票に関する広報の作成、住民投票に際して行われる説明会・討論会の人選等で、自治体議会が関与し、決定する例は以前からあります。近時行われた住民投票で、例えば、鳥取市庁舎整備に関する住民投票(平成24年5月)では、「移転新築案」と「現庁舎改修案」の二つの選択肢で投票が行われましたが、両案の意義、メリット、デメリットを説明した参考資料の作成は、市議会各会派の合意に基づいたものです(鳥取条例第12条参照)。

今回の条例案は、従前の住民投票における議会関与の実態に基づき、明文化したものにすぎません。議会は選管とは異なり、投票の管理及び執行を直接担うものではないので、何ら問題を生じさせるものではありません。

さらに、国民投票広報協議会(国民投票法第11条以下、国会法第11章の3)について触れておられますが(「なお、同様の規定は」以下、かっこ付きの尚書を付されている意図を測りかねますが)、この条例案はそれを参考にしたものではありません。

▼第27条第1項[規則への委任]
 県民投票を実施するために決定しておかなければならない細かな事項は、知事が規則を定めて決定することになる。
これらの規則は、県民投票実施のための市町との協議の内容を踏まえた上で知事が制定するため、その協議等の期間を考慮すると条例制定後20日以内で規則を定めることは非現実的である。



(反論)
 「非現実的」との言い回しが再び出てきますが、問題点を具体的に指し示すものではなく、批判のポイントが明らかではありません。
 沖縄県民投票では、平成8年6月24日に条例が公布され、「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例施行規則」(再掲)、「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例に基づく投票に関する事務の一部を委任する規則」は24日後、7月18日に公布されています。

▼第27条第3項[規則への委任]
この規定は「この条例の規定を適用し難い事項がある場合」との要件を規定して、その場合には条例の規定に優先する規則を特別に置くことができる旨が定められている。
しかし、条例は議会の議決を経た規程であることから、知事が独自に定める規則に優先することが法体系の原則である。
本規定は「この条例の規定を適用し難い事項がある場合」との曖昧な要件により、法体系の例外を定める内容となっており、到底認められるものではない。

(反論)
 首長の規則制定権(地方自治法15条、148条及び149条)は一般に、(1)条例の委任が
ある場合、(2)条例の実施に必要な特例を定める場合、(3)法定受託事務の処理に必要な場合を含む、と解されています。
 条例案第27条3項は、「その他、」という文言で始まっています。第1項、第2項の適用を前提としています。一般的な競合事項に関し、地方自治法の規定・解釈を逸脱するようかのような、規則による条例の上書き等を広く認める趣旨ではありません。
また、「曖昧な要件により、法体系の例外を定める内容」というような偏固、無理な解釈に拘る必要性は、どこにも認められません。

▼附則第2条[失効]
投票日の翌日から起算して3月を経過した日にその効力を失うとしていることにより、知事及び県議会が投票結果を尊重する義務を定めた第26条も、3月を経過した時点で効力を失ってしまうこととなる。
3か月間の尊重義務しかないのでは、住民投票の本来の目的を達成できない。

(反論)
 住民投票条例には「一定期間経過後に失効する」とする実例があります。
先に触れた鳥取市庁舎整備に関する住民投票条例(平成24年)、滋賀県米原町の合併についての意思を問う住民投票条例(平成14年)、上尾市がさいたま市と合併することの可否を住民投票に付するための条例(平成13年)など、投票日の翌日から起算して90日を経過した日に、条例の効力が失われると規定しています。

 失効規定を置くことは、当然のことと考えます。もし、失効規定を置かないとすると、この条例案は事実上「常設型」であるとの理解を許してしまいます。直接民主制の一手段が、同じ案件に関して反復利用されるのではないか、という批判が向けられることになりかねません。
条例が失効したとしても、投票結果までも無効とされたり、県議会・知事の(政治的な)結果尊重義務が消滅することまでは読み込めません。そもそも、法的拘束力のない尊重義務が、現実政治のレベルでも失効してしまうという解釈(そのように読み込もうとする恣意的解釈)には無理があります。

▼その他
第12条等では「投票所」と規定されているが、第24条では「投票場所」と規定されており、統一されていない。

(反論)
ご指摘の通りであり、議案審査のなかで修正の機会があれば、適切に正していただくことが好ましいと言えます。
もっとも、修正が行われないからといって、条例制定の成否ないし住民投票実現の可否を左右するレベルの問題には至らないことは指摘しておきます。

第14条第1項において、「投票用紙は、投票期日、投票所において投票人に交付しなければならない。」とあるが、この規定では不在者投票又は期日前投票の際に投票用紙を交付することができない。

(反論)
第14条は、原則規定です。第13条を受け、期日前投票及び不在者投票に係る具体的な手続きは、「投票期日・投票所・自書投票の原則」の例外として、規則で定められることになります。
あたかも条文の「欠缼」があるかの如く、期日前投票及び不在者投票における投票用紙の交付が不可能であるとは、恣意的な解釈に他なりません。

上記以外にも、法制執務上不適切な表現、規定すべき内容の不足、定義されていない文言等が数多くある。

(反論)
「法制執務上不適切な表現」とは何を指すのか、
「規定すべき内容の不足」とは何か(規則事項等と解することが許されないものか否か)、
「定義されていない文言」とは何か(条例上、定義規定を置かなければならない性質のものか)、「等」「数多く」とは何を指すのか、
学術的に通用しない、乱暴不当な言葉が連なっており、これらの点は具体的な内容を示される
ことを要望します。

(以 上)


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