静岡県議会議員各位の皆様方へ
弁護士の青山さんから条例案に対する混乱についての説明文を作って頂きましたので以下、添付します
静岡県議会議員各位の皆様方へ
「中部電力浜岡原子力発電所の再稼働の是非を問う県民投票条例案」を巡る混乱について
平成24年9月11日
弁護士法人ライトハウス法律事務所
代表弁護士 青山 雅幸
静岡県が表記条例案について、問題点を指摘するとともに記者発表を行い、その後生じている混乱について、原発県民投票静岡鈴木望代表からご相談を受け検討を行いましたので、ご説明申し上げます。
1 条例の制定改廃請求権に関する地方自治法12条、同74条の解釈
そもそも地方自治法(以下「法」という)の定める条例の制定の請求権(法12条)は、直接民主政治の理念に基づき、住民に直接発案(イニシアティブ)を行わせようとする制度である。しかし、法は、条例の請求において、住民に認めるのは発案に止め、普通地方公共団体の議会の議決によって決することとされている(添付資料208頁)。
このような制度設計に鑑み、請求に付される条例案は、形式が一応整備されていれば足り、規定のうえの立法技術上の多少の不備は問わないというべき、とされています。そして、「議会において審議し修正することも可能である以上、立法技術条も完全な条例案を要求しているものとは考えられない」とされています(同214頁)。以上の見解は、地方自治法における通説であり、各文献においても特に争いはありません。
2 中部電力浜岡原子力発電所の再稼働の是非を問う県民投票条例案の検討
前項の法の趣旨に鑑み、中部電力浜岡原子力発電所の再稼働の是非を問う県民投票条例案(以下「本条例案」という)を検討しましたが、本条例案が形式上一応整備されていることは一見して明らかです。
確かに、県当局が指摘されるような用語の統一や法技術的な見地からする補正が必要な部分は散見されますが、修正が可能な事項です(既に代表から提出された修正案参照)。
本条例案の本質は、1条の「目的」並びにこの目的のために2条に定められた「県民投票」であり、この根幹に関わる部分に補正が必要があれば別途、県当局もこの根幹部分についてはなんの指摘もしていないとおり、不備はありません。
なお、本条例案7条に定める投票資格者の年齢について若干附言いたします。この点については、県当局が指摘する公職選挙法9条及び国民投票法附則3条2項の規定(年齢満20年以上)と整合性がある必要は、法的にありません。この点については、本条例案が独自の観点から定める事柄であり、公職選挙法などと同一の定めとすべき理由はありません。ただし、投票資格者名簿の調製上の都合から、予算ないしは時間的な制約のため、県議会において年齢満20年以上と修正することは当然可能であり(前項参照)、また、この観点からする修正が前記の本条例案の本質に関わるものでないことは明らかです。換言すれば、このような政治的判断、議会としての判断があり得ることを前提として、法74条は議会による審議を定めているものであります。
3 県当局並びに県知事の発言について
以上のような法の趣旨に鑑みれば、県当局の発表は、法の趣旨を十分に理解していないものであり、ひいては、議会による修正権を軽視するところであります。議会において、請求がなされた条例案を審議し、必要があればこれを修正することは法の建前からしてむしろ当然であります。
本条例案1条・2条以外の条文に関しては、議会において様々な見地から修正を加えることがあるのは法が予定しているところであるにもかかわらず、「不備」「このままでは施行できない」などと攻撃的な表現で記者発表するなどという事態は、住民に発議権(イニシアティブ)を認めた上で、間接民主制によって住民を代表するところの議員で構成される議会において、条例案を精査し、場合によっては修正することも認めた法の趣旨を完全に逸脱するものであります。
また、極めて残念ながら県当局のミスリードの下、県知事におかれても、請求代表者らに対し、投票者に対する謝罪を求める発言があったとのことであります。しかし、法は、必ずしも法技術において専門的見識を有することが期待できない住民が発議するにあたり、完璧な案であるところを求めていないことに鑑みれば、この発言は、法の趣旨を超え、過剰な水準を住民側に求めたものと思料されます。
4 結語
以上によれば、今回の県当局による記者会見に端を発した混乱は、法の趣旨を十分に理解していない県当局によるミスリードが真の原因と考えられ、このミスリードに県知事並びに請求代表者らも引きずられ、無用な混乱が助長した感が否めません。県会議員各位におかれましては、以上に述べました法の趣旨並びに本件混乱が無用なものであることを十分理解された上で、県議会において意義ある審議をされたく、ここにご説明申し上げます。
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